“生態系の一部”としてのわたしたち
はだし感覚から、心地よい未来へ
はだし研究者 金子潤さん(清里在住)に学ぶ、
森への扉の開き方

頑丈で、立派な、まるで野生動物のような足……。清里を拠点にはだしの研究などを通して、人、地域社会、自然、経済をつなげるエコツーリズムを手掛ける一般社団法人ミチヅクリ。代表の金子潤さんの足は、大地と直接つながることで、自然と人の関係をそのまま地続きにしてしまう─。
「足はただの運動器ではなく、感覚器。自分の身体を通して、森づくりや環境について思いをはせるようになることが未来もつくると信じている」。そう話す金子さんの歩みから、自然への扉の開き方のヒントを教えてもらおう。



足はただの運動器ではなく、感覚器
はだし研究者になる前、金子さんはプロバスケットボールチームのスポーツトレーナーとして活躍していた。早稲田大学在学中から「バイオメカニクス」という人間の動きを力学的に分析する学問に励み、同大大学院修士課程とプロトレーナーを両立していた。
最初に足裏の可能性に気づいたのはその頃。アスリートに足のけがが多かったことから、インソールの改善などを試み始めたことがきっかけだった。「足は体の中で唯一常に地面に接している部分。足元を変えることが、体を変えることに直結すると感じていた」。
しかし、その後、研究とトレーナーの超多忙な両立に心身が追いつかなくなり、自律神経失調症に。一か月で10キロほど体重が落ち、気力もなくなった。幸いにもそのときに出会った鍼灸師に救われる。心療内科から多くの薬を処方されていたが、鍼灸師のひと針が薬を遥かに超える効能を発揮した。「鍼灸の帰りに、持っていた薬を全部捨てました」。モラトリアムだった約3年間、自分の体の声に耳を澄ませることの大切さに気づいた瞬間だった。
再び研究に戻った金子さんは、研究対象をインソールから、はだしに変えた。モラトリアムを経て、米国で五本指シューズのメーカーに出会い、米国にはだしランニングのブームを巻き起こしたベストセラー本『Born to Run 走るために生まれた』を読んだ。そして決め手となったのは、その本をきっかけに参加した、代々木公園陸上競技場でのはだしランニングのイベントだった。
はだしで5キロ走った、このときの感覚を今でもよく覚えている。「走り終えて疲れているはずなのに、土踏まずがいつもよりくっきりとして、ふくらはぎも柔らかかった。インソールでしっかりと足を固める研究をしていた自分には常識を覆される衝撃的な体験だった」。はだしに人間本来の体の使い方の本質がある―そう確信したときだった。
はだしで歩きたくなる森づくりをしよう
さらに研究を進めていくなかで、足は単なる運動器ではなく感覚器だという大きな気づきに至った。はだしで過ごす子どもたちのデータや、自身の体験を通じて、足裏が全身の感覚の幅を広げる入口であることを確信したという。
清里との縁は2020年。知人に勧められ、萌木の村ホテル ハット・ウォールデンのBarに立ち寄った際、地域の未来を語る地元の長老に偶然出会ったことがきっかけだった。そこから、はだしの研究、引き算思考、清里の未来像がひとつにつながっていった。
2021年からは清里を拠点に、はだし体験を取り入れたエコツアーを実施。森をはだしで歩くという非日常体験を通して、森のリズムと心身のリズムの調和を感じてもらうプログラムを展開している。
金子さんにとって、はだしの森歩きは「足裏で環境問題を捉える」ことでもある。適切な管理がされた森は、光が差し、多様な種が育ち、土中の微生物の働きによって、地面がふわふわの腐葉土に覆われる。そうした「はだしで歩きたくなるような心地よい森づくり」につなげることが、環境再生医でもある金子さんの目標だ。
現在はNPO法人清里観光振興会理事なども務め、「森が元気になることは、人が元気になるということ」という考えのもと、地域再生への取り組みにも目を向けている。
「自分の生きているうちに少しでも景色を変えたいと思っている。清里の地に流れる開拓者精神で新しい道を仲間と共に拓いていきたい」。
はだしの一歩が、環境や地域づくりへのまなざしにつながる。あなたの八ヶ岳での暮らしや旅の時間も同様に、心地よい未来を想像できるひとときになりますように。自分の身体に耳を澄ませて。
金子潤(かねこ・じゅん)
一般社団法人ミチヅクリ代表理事/はだし研究者/整体師/早稲田大学大学院人間科学研究科修了/日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー/環境再生医/公益財団法人キープ協会理事/NPO法人清里観光振興会理事
*自宅敷地内で「はだし屋 清里」を営業。Vibram社の5本指の“はだし感覚シューズ”などを販売。




